第2章 誰も知らない
「おいそこの娘、1人で茶器2つか。男に捨てられでもしたか?」
お店から出てきた一味と思われる浪士1人が私に声をかけてきた。
「あ、えっと…その…」
浪士から絡まれた時はすぐさまここから離れてしまいたいと思うんだけど。
でもきっとこの人は逃しちゃいけないんだと思う。
下手に気に障らない様に引き止める感じで話してみよう。
「黙ってしまってどうした。図星か?俺が相手をしてやらなくもないぞ?」
だからと言って私が適切な対応が出来るのかと言われたらそれは
「い、いえ、結構です。」
出来ない。
反射的にきっぱり断ってしまい、我に帰った瞬間激しく後悔する。
浪士はニヤリと怪しく嘲笑うと力のこもった右手で手首を掴む。
「いや!離して!」
もうこうなったら私にはどうにも出来ない。
小太刀も無いし山崎さんを待つしか
「それが勤皇の志士に対する態度か娘。お主は黙って言う通りにすれば良いのだ!」
「じゃあオレらの前で名乗るお前は命知らずってとこでいいか!」
隙をつかれてわき腹に刀の柄頭で一突きを受けた浪士は左腕を下敷きに倒れる。
そしてすぐさま威勢のいい挑発をしようとするものの、やられた相手を見た瞬間青ざめた顔で逃げ出した。
その頼もしい背中を見つめて、彼の名を親しみと感謝を込めて呼んだ。
「平助君!」