第2章 食べさせて
「もう!皆さんそんなこと言ったって、おいなりさんしかおまけしませんよ?」
「え、マジで!」
「よっしゃ!」
「蓮見、俺も俺も!」
背後から影が差したと思ったら、ぬっと後ろから長い腕が伸びてきて、肩と頭がずっしりと重くなる。
「……もしもし、リエーフさん?重いんですけど。あと顎痛い」
「俺は楽チン。なぁ、俺にもちょうだい」
頭からリエーフの低音の声が振動とともに伝わってくる。
見るまでもない。後ろからリエーフに抱き付かれるような形で密着されているのだ。
慣れた私も、見慣れたバレー部員たちも今更驚かない。
ただ、「あー、またやってるのね。アイツら」という生暖かい視線がちらほらと。
「どうぞ。リエーフのリクエストだし」
「やった!」
と嬉しそうな声を出しつつも、リエーフは腕を私の前でぶらぶらさせている。
「食べないの?」
「んー、食べさせて」
私の頭に乗せていた顔を肩まで持ってきて、「あーん」口を開くリエーフ。とんだ甘ったれだ。
「全く。……ほら」
「むぐっ、もぐ……」
おいなりさんを口に放り込んでやると、リエーフはご満悦な様子で咀嚼した。
「クッソ、なんでリエーフだけ彼女が……!!レシーブもサーブも下手くそトップで独走してる癖に……!!」
「猛虎さんはモテない男をトップで独走してますからね!」
「上等だ表出ろや犬岡コラァァァ!!!」
「止めろ。キャプテンが挑発乗ってどーすんだ」
「すんません……」
夜久先輩に叱られてしゅんと落ち込む山本先輩。新音駒バレー部は、まだまだ先輩たちの影響力が強いらしい。
にしても、山本先輩の言葉はちょっと聞き捨てならない。
「あの、何度も言いますけどね……。
――私とリエーフ、付き合ってませんから」