第2章 食べさせて
何故私がバレー部の昼食を作っているのかと言えば、それは春まで遡る。
「練習が厳しくて昼飯だけじゃ、すぐに腹が減る」と溢すリエーフに差し入れをするため、休日に体育館を訪れ、驚愕した。
厳しい練習の間にある選手たちの癒しの時間、昼休憩。
彼らが嬉しそうに蓋を開けた弁当。そこに入っていたもの。
唐揚げ、海老フライ、サイコロステーキ、豚のしょうが焼き、コロッケ、肉、揚げ物、肉……。
男子高校生お馴染みの茶色弁当である。
その物体を旨そうに頬張る彼らを目にして、私は盛大にぶちキレた。
選手の資本は身体。その身体を作るのが食事。
全国目指してる選手たちが、そんな偏ったメニューばかりを摂取して、良い身体が作れるわけないだろ!!
部員全員、纏めてスポーツ選手の食事の何たるかを説教した。
無論正座だ。先輩後輩も関係ない。
その勢いのまま、呆然とする直井コーチとニヤニヤ笑う猫又先生から許可をもぎ取り、私は音駒バレー部の食育を担当することなった。
……まぁ、食育と言ってもほぼ休日の給食係と化しているのが実状。
それでもカロリーを気にして私に聞きに来る選手もちらほら出てきて、食育効果が少しずつ見えてきているので良しとする。
「おお、こりゃまた旨そうだな」
「そりゃ、作るからには不味いご飯は食べさせられませんから!」
最後の部員に料理を配り終えると、猫又先生や直井コーチが食器を持ってきた。
最初は先生たちを最優先に配るべき、と思っていたのだけれど、「激しい運動に腹をすかせた部員たちにこそ、暖かい飯を食わせてほしい」と言われ、以降先生たちの順番は一番最後。
音駒バレー部は本当に良い指導者に恵まれている。
「いつも悪いな。部員じゃないのにわざわざ休みの日に来てもらって。ろくに礼もできないのに」
申し訳なさそうに直井コーチが言う。
確かに月始めにお金は徴収しているけれど、全て食費に消える。
いくら料理が好きと言っても、二十人近い人数の食事を一人で用意するというのは相当な重労働だ。
けれど、私はそれを苦には思っていない。
バレー部のご飯を作ること。それが私の部活動であった。