第2章 食べさせて
「はぁ……。結構仲は良いと思いますけど」
「ふーん……」生返事が返ってきて、それっきり。
何だってんだ、一体。
しかし、黒尾先輩が何を考えているのかわからないのは、いつものこと。
よいせ、と番重を抱え直して前を向くと、
「蓮見ーーー!!」
体育館からダッと飛び出してくる男子。
大声で私の名前を呼んでブンブンと腕を振りまくりながら走ってくる。
仕種だけ見れば子どもっぽくて微笑ましい。
が、百九十センチ越えのロシア人が全力で迫ってくる図は、全くもって微笑ましくない。恐怖である。
「リエーフ、ステイ!!」
「ぶほっ」
両腕を広げて突っ込んで来たところを、鋭く制止の声を上げる。
隣から聞こえた奇妙な音は無視だ。無視。
すると、私の目の前でぴったり止まるロシア人こと灰羽リエーフ。
キラキラした期待の目で私を見て、そわそわと許可を待つ姿は、さながら餌を目の前にした犬だ。
犬とは異なり、見上げるのではなく、見下げてくる辺りが少し癪だけけど。
「はい」
「!!!」
保温シートをぴらりと捲る。その下から覗く黄金色。
隙間から見えたそれに、緑色の瞳がぱぁっと輝いた。
「リクエストのおいなりさん。ちゃんと作ってきたから。早く体育館行くよ」
ぶんぶんと何度も首が縦に振られた。
歩き出せば、リエーフは私のあとをひょこひょこと嬉しそうに後ろをついてくる。
百四十センチそこそこの私のあとを追う、百九十センチオーバーのロシア人。
これが街中で、リエーフが高校のジャージを着ていなければ通報されかねない図だ。
……実際私服で遊びに出掛けたときに、一度そうなりかけたことがあるのだから笑えない。