第8章 ほろ苦く、甘い
ズルズルと黒尾先輩に引きずられていったリエーフと、今までになく殺伐とした空気を放つ孤爪先輩を見送り、夜久先輩は嘆息する。
「全く、あのアホハーフめ……無自覚で襲うとか質の悪い……」
そして、未だにぽかんとしている私の頭を小突いた。
「いたっ」
「蓮見も。嫌ならちゃんと抵抗しなよ」
……嫌?
私は、嫌だった?
確かにいつもと異なるリエーフの雰囲気に飲まれて、怖いとは思った。
だけど、あの時の私は……、
「……じゃ、なかったんです」
「え?」
「い、嫌じゃ、なくて……だから」
何度か抵抗は試みたが、それはリエーフに押さえ付けられて、全て失敗に終わっている。
けれど、本気で嫌だったなら。突き上がる衝動に任せてめちゃくちゃに身体を動かして、抵抗できた。
でも、私はそれをしなかった。
身悶えるほどの羞恥や、未知の感覚への恐怖はあれど、負の感情はなかったのだ。
私自身が、あの行為を危険だと、不快なことだと認識しなかったから。
つまりそれは――私があの行為を、恐れながらも望んでいたから。
「え?……え?」
……まさか。
いやいや、まさか。
だって、リエーフは子供で、弟で、友達で。いや、実際は男だったけど、そうじゃなくて。
まさか私が、そんなの。
驚きと、困惑と、羞恥と。
様々な感情が、スープのようにお玉でぐるぐると、かき回されているみたいだ。