第7章 男はみーんな、狼だ
一瞬何が起こったのか、わからなかった。
空き箱を片そうと伸ばした腕を取られ、引き寄せられた。
顎を上を向けさせられたと思ったら、真上から覆い被さるように、唇に掠めた感触。
「リエーフ……?」
呆然と名前を呼べば、近付く緑色。
かさついて、暖かく柔らかいものが再び唇に触れる。
……キス、されてる?
その事実は理解しても、感情が追い付かない。
ただただ呆然としていると、私の視界はいつの間にか切り替わっていた。
普段は教室を明るく照らす埃の積もった蛍光灯、所々薄汚れた染みのついた壁。天井だ。
じんじんと鈍い痛みを訴える背中。
自分が床に仰向けに倒れていることに、遅れて気付く。
「え?……え?」
間抜けにも困惑の声しか出せない私に、リエーフは容赦がなかった。
先程とは異なり、些か乱暴に重ねられた唇。
僅かに開いた隙間を、熱く滑ったものに抉じ開けられる。
「んっ、んーー!?」
驚いて両手でリエーフの胸を叩けば、煩わしげに大きな手に捕らえられ、頭の横で拘束される。
抵抗も許されずに、ただ与えられる熱に震えるしかなかった。
しばらくして、離れた唇が銀糸を繋いで、ふつりと途切れる。
口腔内に残るのは、先程食べさせたトリュフのほろ苦く甘い味。
濡れた唇を戦慄かせて、喘ぐように空気を求めた。
心臓の鼓動がうるさくて仕方ない。それは、長い口付けに酸素が足りなくなったから、というだけではない。