第5章 知らない女の子
「どうぞ」
「お、サンキュ。クッキーか」
紙袋の中身を見ると、黒尾先輩は中身を一つ取りだす。
ラッピングを解いてクッキーを口の中へ放り込んで咀嚼して、「流石菓子もうまいな」と言うと、
「で、何でリエーフを避けたんだ?」
「……やっぱ言わなきゃ駄目ですか」
「大体の見当はついてるけどな。先輩からのありがたーいアドバイスがほしけりゃ言え」
敢えて自分が指定された理由も、正しく理解しているようだ。
相変わらず食えない。でもわかった上で来てくれた辺り、黒尾先輩は何だかんだで人が良い。
諦めて、素直にぽつぽつと事のあらましを話す。
最初こそ神妙にうんうんと頷いていた黒尾先輩だが、途中から顔を伏せて微動だにしなくなり、そして後半になると肩を細かく揺らしていた。
「……というわけですが」
「……」
「黒尾先輩」
「……何だ」
「……笑いたいなら思いきり笑えば良いじゃないですか!!」
ヤケクソ気味に叫べば、黒尾先輩は盛大に噴き出した。
そのまま腹を抱えて笑い袋と化す。
思いきり笑えば良いとか言ったけど、これはこれで腹が立つ。
黒尾先輩の分のクッキーは返してもらおうか。
「おまっ、ホント最高。その発想はなったわぁー……ぶっふふ」
「うっさいです!」
「まぁ、怒るな怒るな。それで?友達にしこたま怒られて、リエーフの立場だったらどう思うかって、気付けたんだろ?良い友達じゃねーの」
「……はい。だから、チョコ渡して謝ろうと思って」
「よろしい。何が悪かったかちゃんとわかってるなら大丈夫だろ。あとは渡すだけだ。……つか、まだ渡してねーの?同じクラスだろ」
「捕まらないんですよ!今日に限って!昨日までは逃げても逃げても追いかけて来たのに!!」
「落ち着け落ち着け。はい、深呼吸」