第5章 知らない女の子
クッキーは、ナッツとサクサクの生地の相性が抜群。チョコチップの甘さが絡み、生地のココア味を引き立てる。
トリュフはパリッとしたコーティングと口で蕩けるガナッシュの二重奏。柔らかく甘いガナッシュとココアパウダーのほろ苦さが絶妙。
どちらも私の自信作。
これを食べれば、仲直りだって簡単にできるはず。
……なのに。
「何で今日に限って捕まらないの……!!」
昼休みでもあまり人気のない一階の廊下で、絞り出すように大きなため息をつく。
折角謝ろうと思ってお菓子も準備して、勇気を奮い立たせたのに。
当のリエーフは遅刻ギリギリ登校。休み時間に声をかけようとすれば、先生に呼びされただのトイレだの、尽く空振りで終わっていた。
つい昨日までは必死で避けていても追いかけてきて何度も捕まりそうになったのに、今日は捕まえようと思っても掴まらない。
私ってひょっとして神様に嫌われてる……?、と荒唐無稽なことを真剣に考えたくなる。
「おい、人呼び出しておいて盛大なため息ってどうなの」
「あ、黒尾先輩」
「うーす、なんか面白いことになってるらしいな。お前とリエーフ」
片手を上げながら、部活を引退にしてる三年生分のクッキーを纏めて受け取ってもらうよう、呼び出した黒尾先輩が歩いてきた。
……学年違うのに何で知ってるんだこの人。
「お前ら結構目立つからな。一年のバカップルが喧嘩してるらしいって噂がこっちにも流れてきたんだよ」
「バカップルって……」
「ま、端から見りゃ、お前らはそう見えるってことだよ」
「友達にしちゃあ、近すぎるって、お前もいい加減自覚したんだろ?」と言われ、渋々頷く。