第2章 食べさせて
ピーッと、炊飯器が炊き上がりを知らせた。
しゃもじ片手に炊飯器の元へ向かう。
蓋を開ければ、ふわりと視界を白く覆う湯気。炊きたて米の甘い香りが鼻孔を擽る。
はぁ……炊きたて最高……。
ご飯の香りにうっとりとしかけて、慌ててしゃもじを握り直す。
しゃもじを垂直に入れ、サッと十字に切った。
釜底から米をしゃもじで掬い、まんべなくほぐし混ぜる。
米粒を潰さないよう慎重に。
自然と顔が強張り、しかめっ面で炊飯器と格闘する。
米なんて炊いてしまえば同じ。ただ混ぜるくらいで……と、思うかもしれないが、言語道断。
美味しい米はしゃり切りが命。ご飯の美味しさはここで決まると言って良い。
炊き上がり直後に、空気と混ぜて余計な蒸気を飛ばすことでふっくらとした食感が生まれ、冷めても美味しいご飯ができるのだ。
しゃり切りを終えて、今度は米酢に砂糖、塩を加えて寿司酢を作る。
米酢は穀物酢と比べ多少値が張るけれど、穀物酢より味がまろやかで風味に優れるため、米酢がおすすめだ。
酢を何度かに分けてご飯に加えてよく混ぜ、バットに移して三分ほど団扇で扇いだ。
「あつー」と、額の汗を拭いつつ、たまに自分を扇ぐのはご愛嬌。
昨夜から砂糖、醤油、みりん等の特製ダレ浸けた油揚げを半分に切る。
スプーンで酢飯を詰めれば、黄金色のおいなりさんの出来上がり。
大量の酢飯を詰め終えたところで、もう一つの炊飯器が炊き上がりを知らせた。
腹をすかせた奴らの腹は、炊飯器一つじゃとても足りないのだ。
同じようにしゃり切りしたご飯に、今度は酢ではなくちりめんじゃこと、水で戻した乾燥わかめを適当な大きさに切って加えた。
ご飯と具がまんべんなく混ざったら、水で軽く濡らした手に塩をつけ、熱々ご飯を三角に握る。
握ってから塩を振るよりも、塩を手につけて米を握った方が程よく塩気が利く。
あ、あっつい……!
火傷しそうになりながら、せっせと握る。それが一つや二つなら構わないけれど、何十個も握るのだから大変だ。
わかめじゃこのおにぎりの量産が終わり、最後に豚汁を温め直すために火にかける。
自分の周囲にずらりと並んだご飯見渡し、達成感を感じながら額の汗を拭った。
本日のメニュー、おいなりさん、わかめじゃこのおにぎり、豚汁の完成だ。