第1章 ライオン
ライオン。
ほ乳綱ネコ目ネコ科ヒョウ属に分類される。別名、獅子。
鋭い牙と爪、大きな体躯を持つ肉食獣。
しかし、意外にも食事以外は一日中寝そべっていたりと、案外のんびりした気質を持っている。
生まれたときから人間に育てられた個体であれば、それは特に顕著であり、テレビで面白おかしく紹介されることもある。
だらりとお腹を見せてゴロゴロと喉を鳴らす姿は、まるで大きな猫だ。
けれど、勘違いしてはいけない。
彼らは獣である。その本性は、鋭い牙を持って他を蹂躙する生き物だ。
猫とは異なり、いくら飼い慣らそうとしても、完全に御すことはできない。
油断すればカブリと首に噛み付かれ、頭からペロリと食べられてしまうことだってある。
そう、私のように。
視界いっぱいに広がるのは、見慣れた天上。そして、緑の瞳。
ギラギラと輝くそれは、獲物を何処から食べようかと吟味する肉食獣のそれだ。
――食べられる。
そう直感し、知らずに身体が震えた。
私の怯えを悟ってか、口元がゆるりと曲線を描く。
震えて動かないのが好都合とでも言いたげだ。
足の間に無理矢理捩じ込まれた身体が、腕を床に縫い付ける手のひらが、熱い。
剥き出しになった自分の白い内腿、細い手首……彼に触れる全てが火傷しそうだ。
服越しに、大きな手が身体を這う。
脇腹を指の腹で擦られて、口から自分のものとは思えない声が飛び出した。
細くなる緑の瞳。涼しげな色なのに、宿るのは跡形もなく焼き付くされそうな激しい炎。
嬲られている。
食べる前に、私の反応を楽しんでいるのだ。
知らない。
こんなの、知らない。
だって私が知っているのは、大きな身体でひょこひょこ私のあとを着いてくる、無邪気な笑顔。
なのに、こんな。
震える私を押さえ付けて、寛げた首に荒い吐息と湿った熱い舌を這わせる、飢えた獣のような。
否定したところで、目の前の獣がいつもの手のかかる弟のような友人に戻ることはなかった。
近付いてくる薄い唇。それはきっと、ほろ苦い。
静かに睫毛を落とした。
閉じた目蓋の意味は、自分でもわからない。
補食される恐怖か、――与えられる甘美への期待か。