第4章 全てはリエーフのため
「蓮見蓮見ーー!」
……来た。
朝から人の名前を連呼しながら騒がしく駆けてくるリエーフ。
このままゆっくり歩いていれば、追い付いたリエーフに抱き上げられたりと、毎朝恒例のスキンシップがある。
しかし、それはあくまでいつもの話。
「…………」
一度立ち止まって深呼吸。
そして、ダッシュ。
「えっ!?」
「はっ!?」
「えぇ!?」
脇目もふらず、一目散に廊下を駆け抜ける。
「またやってんのねー」と生暖かい目で見守ろうとしていたギャラリーから上がった、驚きの声は無視する。
一瞬後ろを振り返れば、ぽかんとした表情で立ち尽くすリエーフがいた。
ごめんね、リエーフ。許して。
全部リエーフの、そしてリエーフの彼女になるかもしれない女の子たちのためなの……!
別に流れてもいない涙を拭うふりをして、私は授業ギリギリまでリエーフと顔を合わせないよう、女子トイレにこもった。
「蓮見、朝どうしたんだ?具合でも悪いのか?」
「あぁ、ごめん。お腹痛くて……」
休み時間、案の定怪訝そうな顔でリエーフが席に寄ってくる。
適当に言い訳すれば「腹?壊したのか?」と、手を伸ばしてくる。
明らかに不自然な私の行動は咎めもしない。心配そうに下がった眉に良心を痛めつつ、伸ばしてくる手を避ける。
「……蓮見?」
いつもは避けられない手を避けられて、キョトンとするリエーフ。
「いや……その、ね」
女の子がお腹を押さえて言葉を濁す。
大体の人はそれで察してくれるものだが、リエーフには通じなかったらしい。
追求しようとするリエーフを、周囲の理解したクラスメイトたちが止めてくれた。
「リエーフ。ちょっと男子の方行ってようか」
「え?でも俺は蓮見と……」
「まぁまぁ、蓮見さんばっかじゃなく、たまには俺らにも構えよ」
困惑したままのリエーフを引きずるように連れていく男子と、私との間に立ってくれる女子。
彼らから送られてくるのは労りの眼差し。
それらにますます良心を抉られつつも、安堵の息をはいた。