第3章 心が浮き立つような恋よりも
「あ、コラ!無視しない!」
「……だから、私とリエーフはそういうのじゃないと何度言えば……」
「でも今回ばかりはそういうことでしょ。この時期にチョコがほしいって、あからさまなアピールじゃん」
確かに、このバレンタインが近い時期にチョコの要求。
相手が普通の男子であれば、私だって「もしかして……」と思う。
しかし、相手はあの灰羽リエーフ。
同い年の女子を平気で抱き上げ、挙げ句「小さいから軽いかと思ったら案外重いな!」などと笑顔で宣う輩だ。
私を女子とも思っていない彼は、その「普通」のくくりではない。
「……ないな。たまたまだよ。たまたま」
「えぇ?そんなことないと思うけど」
「……いや、でも相手はあのリエーフだから……うーん……」
唸る友人たちを尻目に、もう一度黒板を見た。
二月十日。二月十四日のバレンタインデーまで、あと四日。
「すっかり忘れてた……。どうしよっかなぁ……」
思い浮かぶのはバレー部の面々。
色々とお世話になってるし、やはり作りたい。
いつものように材料費を徴収するつもりはない。買い出しも当然一人。
しかし、バレー部員は引退した三年生、先生たちも含めて二十人ほど。
作る以前に、材料を集めるのも一苦労。
材料が少なく、大量生産がしやすく、かつコストも控えめなものが良い。
となると……クッキーが無難だろう。
クッキーならば、材料を混ぜて焼くだけ。
前日に学校から帰って直ぐに生地を作り、夜から焼いても充分間に合うはずだ。