第3章 心が浮き立つような恋よりも
彼氏居たのか、あの子……。
高校生にもなれば、彼氏彼女もそう珍しいことではない。
しかし、クラスでも大人しめの女の子が既に彼氏持ちだった、という事実は思いの外私に衝撃を与えた。
「付き合ってたんだね……。リエーフ知ってた?」
「付き合ってるのか?あれ?」
「え!?見りゃわかるでしょうよ。付き合ってるよあれは」
幸せいっぱいオーラを振り撒くカップルを眺め、リエーフは「そうか?」と首を傾げる。
あそこまであからさまでも読めないとは……。空気の読めなさも、ここまで来るといっそ尊敬に値する。
「なんていうか、ほら。あの二人の回りだけ空気が柔らかーいっていうか、あまーいっていうか。なんかこう……ふわふわしてない?」
「ふわふわしてたら付き合ってるのか?でも夏頃、黒尾さんの彼女だって先輩が他の女の先輩と取っ組み合いしながら黒尾さんに詰め寄って、めちゃめちゃ怒ってたぞ?あれは絶対にふわふわしてなかった」
……何やってんだあの人は……。
思わぬところで明らかになった、仲の良い先輩の恋愛事情にドン引きする。
「……それは特殊な例だから」
固い声音で答えながら再びカップルへ視線を向ければ、不意に彼女が笑顔を浮かべる。
ふわりと、柔らかく花の蕾が綻ぶような。
それは、今まで一年近く一緒の教室に居て見てきた表情の中で、一番綺麗だった。
「……良いなぁ」
思わず、ぽつりと呟く。
普段はクラスの中でも大人しくて目立たない、取り立て特徴のない普通の女の子。
だけど、今の彼女は誰にも負けないくらいに綺麗で可愛い。
それはきっと、隣で幸せそうに笑う、彼が居るから。