第3章 心が浮き立つような恋よりも
「蓮見、蓮見!!」
バタバタと廊下を走る派手な音。そして大声で名前を連呼されれば、振り返らずとも相手はわかる。
「リエーフ、廊下は走らない」
「ごめん!なぁ、なぁ!聞いてくれよ!」
謝罪もそこそこに話を進めるリエーフの顔は、キラキラと輝いていた。
烏野の日向くんを相手にしたときみたいな顔だ。よっぽど嬉しいことがあったらしい。
「どうしたの?」
「これ!」
差し出されたのは一枚の紙。この間の英語の小テストだ。
「灰羽リエーフ」と、右上がりの豪快な字で書かれた名前の横。赤ペンで書かれた点数を見て、思わず驚きの声が飛び出す。
「え!?八十点!?」
「な?すげーだろ!?」
私にテストをつき出して、リエーフは自慢げにふんぞり返る。でも、その得意気な様子も納得だ。
何せ、身長と身体能力に栄養を取られた彼の頭の出来は非常に残念。
テストの答案用紙には、常に三十やら四十やらという点数が踊っているという有り様だ。
そのリエーフが。小テストとはいえ八十点。
前代未聞の快挙だ。
「すごいじゃん!!これ本物!?」
「本物だって!蓮見がこの前教えてくれたとこが出たから」
「ありがとな!」と、言うリエーフにちょっとホロリとくる。
理解力も乏しく、基礎すらちんぷんかんぷんで、何度匙を投げたくなってもめげずに勉強教えて良かった……!
「良くやった!!よっし、ご褒美になんでも好きな物作ってあげる!!」
「よっしゃ!蓮見のメシ!!何がいっかなぁ……」
「今じゃなくて、あとでゆっくり考えたら?」
うんうん唸りながら悩むリエーフに、苦笑しながら告げる。
するとリエーフは不意に顔を上げたと思ったら、私の後ろに視線を固定した。
リエーフの目線の方向へ目を向ければ、窓に背を預けて二人で雑誌を指しながら話す一組の男女。
女の子の方はうちのクラスの子だ。
クラス委員をしている、控えめだけどしっかりしている子。
男の子の方は見覚えがない。
私たちと同じ男女の二人組であるけれど、雰囲気は明らかに異なる。