第13章 月
俺は、弱っていく女の唇にキスをした
女は俺のキスに、小さく笑い
俺の頬を優しく撫でた
「.....信五に愛されたいって、
恋人になりたいって...何日かだけ、夢が叶って、キスもされてもう...」
女の言葉が、途切れ途切れになる
俺の不安は爆発しそうだった
村上「アホ、今からやろ? 今から二人で楽しむん や!」
俺は震える手で女を抱きしめ続けた
「もう....私、思い残す事...なくなっちゃった...」
涙をためて、女は嬉しそうに微笑んだ
その後、二度と笑ってもくれず、俺に話してもくれなかった
俺は彼女の願いがとけ、腕にいる冷たくなった猫を抱きしめ続けその場にしゃがみこんだ
月明かりに照されてる屋敷を
彼女が望んでいた場所を見ながら、
流れる涙を止める事もせずに、
動かない猫を撫でた
俺は許せなかった、愛する人を奪う神を...
二度と会う事が許されない別れを...
俺も今すぐに後を追いたかった
彼女のいない明日なんて怖くて歩けなかった
今にも気が狂いそうだった
俺は、猫の安らかな顔を見ながら、
朝日を受けて灰になろうと心に決めた
もう、俺もこの世に未練はないから
吸血鬼で良かった
簡単に消える事が出来る
俺は、猫を抱きながら朝を待っていた
そんな俺に彼女の最期の奇跡が起きた
少し空が明らんで来た時だった
悲しみに打ちひしがれて死を待つ
俺の俺の耳に風の音が聴こえた....
<<信五は一人じゃないよ....>>
俺は、その風の音に目が覚めた....
そして、俺は後ろを向くと、仲間が心配そうに後ろに立っていた
仲間は自分達も灰になるかも知れないのに
俺と一緒に外に立ってくれていたのだ
村上「俺は一人じゃなかったな...」
俺は涙を拭いて、みんなに笑いかけた。