第53章 パパはじめました【黛千尋】
【黛】
「ただいま」
「お帰りなさい」
定時で仕事を終え家に帰って来た。
玄関を開ければ夕食のいい香りが家中に広がる。
「今日は早いんだね。本屋さんには行かなかったの?」
「お前、オレが毎日本屋でラノベ漁ってると思ってんの?」
「……うん」
「行ったけど今日はラノベなんて買ってねーよ」
仕事用の鞄と一緒に持っていた本屋の袋。
大きさ的にはラノベの何倍もある。
「何買ったの?エッチな本?」
「ちげーよ…バカか。仕事で使う本だよ」
エロ本なんか必要ねーだろ。
そもそも…夏姫がいるんだからよ。
「それよりも体調は良いのかよ…」
「うん。午前中横になってたら楽になったの」
「……無理すんなよ」
「ありがとう。ご飯出来たら呼ぶね」
「ああ…頼む」
自室に入りスーツから部屋着に着替え、デスク前のイスに腰を下ろした。
本屋の袋から中を取り出す。
某赤ちゃん雑誌。
夏姫の妊娠が発覚してから数ヶ月。
やっと膨らみ始めた腹を見て実感を感じ始めていた。
オレよりあとに結婚した赤司は既に1人の息子がいて、メールすればこの雑誌を薦められた。
しかし、中を読むもラノベのように内容が頭に入らない。
「他人のガキ見せられてもな…」
まあ、まだ自分の子供にすら会えていないのだから仕方がないが…
ペラペラとページをめくり雑誌を閉じた。
「何とかなるだろ…」
「何が何とかなるの?」
「は?」
背後からの声に振り向けば夏姫の姿。
いつの間に入ってきた!?
オレは慌てて雑誌をパソコンで隠した。