第27章 【料理】
そしてその日の晩である。
「兄さん、おかえり。」
家に帰るといつもなら二階の部屋から出てくる美沙が台所から出てきた。
「ご飯出来てるで。」
「ああ、ありがとう、って、えっ。」
「えって何、えって。」
美沙は若干気を悪くしたように言う。
「いや、その、作ったの。」
恐る恐る尋ねる力に美沙はうん、と答える。
「料理苦手って。」
「苦手やで、せやけど言うてもしゃあないやん。」
妙に堂々という義妹の様子からは開き直った感がある。
「まあそうなの、かな。」
「心配せんでも指切った訳やなし、まともに食べられる味である事だけは保証する。」
そう、と力は呟きとりあえず手を洗い、部屋に上がって着替えることにした。
美沙には申し訳ないが正直ドキドキしながら遅い夕食にかかる。とりあえず現状出されたものの見た目は問題がなかった。
「はい、兄さん、ご飯。」
「ありがとう。」
「盛りは大丈夫。」
「うん。」
父はまだ帰っておらず義妹と2人、何だこれ漫画みたいと思いつつ力は美沙が作った食事に箸をつける。これで漫画だと見た目は大丈夫だけど味が殺人的ということがあるが果たしてどうなのか。
「あ。」
口に入れて力は呟いた。
「おいしい。」
美沙がめちゃくちゃ照れた顔をした。モゴモゴとほんまに、と聞いてくる。
「うん、本当に。」
力は正直に答えて箸を進める。
「あー、ちょっとだけ言うと。」
「うん。」
「ちょい味薄い。」
「やっぱりか。ばあちゃんが薄味派やったからなぁ。」
なるほどと思いつつ力はご飯を頬張る。
「お前の場合、自分じゃちょっと濃いかもが意外とちょうどいいかもね。」
「うん。」
美沙はふにゃと笑い、力はドキっとした。慣れてきてから力の前で笑う事は増えたがこんな風に笑うのは初めてみるかもしれない。