第25章 【結局のところ】
美沙が眠気を我慢できなかった間に起きたことはこうである。
「縁下さん。」
「どうしたんだ、影山。」
「その、妹の奴、あれ、寝てませんか。」
「げっ。」
力は顔が引きつる。確かに義妹は壁にもたれて寝てしまっていた。
「つくづく器用だな、おい。」
田中が感心するが力はそれどころではない。
「縁下、落ち着け。」
菅原に言われてオロオロしていた力は一旦大人しくなった。
「スマホケースの紐引っ掛けたりしてないみたいだし落としそうな物は全部引っ込めてるみたいだし大丈夫だって。」
言われて力はホッとしたがふと気づく。
「よくわかりましたね。」
「お前がキョロキョロ見てるとこが手元と足元だったしあの子前スマホケースの紐もつれてたからさ。」
勘の良い先輩である。
「美沙すっげー、どこでも寝れるんだなっ。」
日向が感心すると珍しく清水が発言した。
「うちで寝れてないんじゃない。」
ちらと清水に見られた力はうっと唸った。そこまで気にしていなかったのだ。
「悩みがあるとか誰かと夜中までお話ししてるとか。」
清水に言われて頭にとある他校のキャプテンの顔が浮かび、力の顔が自然に強張る。美沙が及川にハンカチを届けてもらった礼をしたのはいいもののそのせいで美沙のスマホのメッセージアプリに度々メッセージが来ては美沙が相手をしているのだ。その事は知っているが夜中まで人の妹で遊んでいるならやめてほしいものである。
「影山、俺どっかで青城とやりあった時及川さんにボールぶつけるかもしれない。」
「縁下さんっ何言ってんすかっ。」
「大丈夫、ちゃんと手元狂ったように装うから。」
「ますます意味わかんねーっすっ。」
焦る影山を月島が小馬鹿にする。
「ちょっと王様、無関心も大概にしなよ。あいつがあんたの先輩に付け狙われてるの気づいてないの。」
「俺がいちいち知るかよっ。だいたいあの人があんな可愛くねースマホオタク相手にするとか誰が思うっ。」
「ばかっ、影山っ。」
影山の失言に田中が声を上げるがもう遅かった。力の顔からみるみるうちに表情がなくなる。