第24章 【大好き】
「ごめんよ、美沙。」
美沙は言葉に詰まる。
「及川さんの言うとおりだよ。俺確かにお前が離れるのが怖くてそうした。お前が大事にしてくれるのわかってて利用したんだ。」
「兄さん。」
「ひどい兄貴だよな、俺は。」
「私は」
美沙は困った。義兄が泣きそうに見えて焦った。そうしたいわけじゃなかったのに。
「私はただ、どうなんか聞きたかっただけで、その、兄さんがそこまで思ってくれてるんやったらそれは嬉しいってそれだけで。」
うまく言えず美沙は混乱してきた。うまく言えないはずだ、だってそれらは嘘ではないが本当でもないのだから。
「兄さん、」
美沙は意を決した。難しいことを考えるのは苦手だ。泣きそうにも見える微笑みで自分を見る義兄に自ら視線を合わせ、歩み寄り、美沙は言った。
「大好き。」
義兄の目が大きく見開かれ、その片手は美沙の何もつけていない方の手首を掴み、いつかのように美沙の体を引き寄せてきた。
「お前ね、」
やや呆れたようにしかし穏やかに力は言った。
「知らないよ。俺ただでさえ過保護って言われてるのに。」
ここで義兄は耳元で付け加える。
「いいのか、身動き取れなくなっても。」
「ええよ、その代わり兄さんもいなくなったりせえへんでしょ。」
言ったな、こいつと力は笑った。
「さて、それはいいとして。」
ここで美沙は背中がゾワッとして身じろぎしたが、完全インドアの動画投稿者それも一応女子が運動やってる野郎に勝てるはずも無い。
「出くわしたのは仕方ないけどそのまま及川さんと喋ってたってのはどういうことかな。」
「ちゃんと岩泉さん付きやで。」
美沙は言い訳しながらこれでアイス奢られたなどと言ったらどうなるやらわからないと思った。