第20章 【悪い奴】
「あのへらりひょんが私を持ってこうとするとは思えへんけど。」
「へらりひょんってお前ね、ぬらりひょんみたいに言うんじゃない。誰が面白いことを言えと。とりあえず油断するなよ。」
義兄が言っているのにあまりピンと来ていない顔の美沙、力はこいつは本当にと思う。
「お前は俺の妹だからな。」
力は俺の、を強調して義妹の耳元で言った。美沙の目が大きく見開かれる。急に言われてまた戸惑っていることを読み取り力は追い討ちをかけた。
「いなくなるなよ。」
一瞬戸惑い、しかし義妹は言った。
「わかった。」
この辺でとうとう美沙の腹がぐーぐー鳴り出したので力は義妹を解放し自分も着替え、兄妹でかなり遅い夕飯にした。
夕飯が終わってそれぞれの部屋にまた引き上げてから美沙がまた慌てたように力の部屋へやってきた。
「どうしたの。」
「何かハンカチにこんなん挟まっとった。」
渡された紙切れを見て力は無表情になった。
「どないしよう、兄さん。」
「捨てな。」
「えらいあっさりやなっ。せやけど届けてもろたお礼はどないしよ。」
力はしばし考えて
「メッセージアプリのIDだけにしときな。生の電話番号とメルアド教えたくないだろ。」
美沙はうん、と言って義兄の指示にしたがった。
義妹が去ってから力は持ち込まれた及川の連絡先が書かれた紙切れを手の中でクシャクシャにした。自分はやっぱり悪い奴だと思った。
次章に続く