第21章 【加速する過保護】
とある日のことだった。
「ねえ、あれ何なの。」
まず言ったのは月島だった。彼の視線は第二体育館二階、通路の一番奥に座り込んで宿題をやっているらしき縁下美沙に向けられている。
「そりゃツッキー、あれじゃないの。」
山口が遠慮がちに目を向けたのは当然美沙の兄である力の方だ。
「ああ、悪いね。」
気づいた力が言う。
「大地さんと武田先生の許可は取ってるから。」
「過保護すぎやしませんか。」
月島が言った。
「いくら青城の及川さんに目つけられかけたからって。」
「ん、ああ、そっちじゃないよ。」
力は穏やかに言う。要領を得ない月島に木下がこそっと言った。
「どっかの馬鹿が今日妹さんに絡んできたらしくてさ、1人で帰すのが心配なんだとよ。」
それって逆効果なんじゃ、と月島は呟くが聞こえているはずの力はまったく動じない。
「それで言うこと聞くあいつもあいつですね。」
それがさ、とここで口を挟んだのは成田である。
「流石の妹さんもやり過ぎだ恥ずかしいって大丈夫だって大分抵抗してたんだよ。だけど逆に縁下が聞きゃしなくて。」
月島がぶっと吹いた。大変レアだ。難しく言うと得難い光景である。
「妹さんは兄貴に笑って凄まれて今あのざま。」
「あいつが思ったより盲目的でないようで安心しました。」
「でも縁下さんに凄まれたらそら美沙さんも何も言えないよね。」
山口が苦笑する。
「いーじゃねーか、兄貴が妹守らなくてどーするよ。」
「西谷さんは単純でいいですね。」
「んだと、こらぁっ。」
力を他所に好き勝手言っていた連中は澤村にいつまでしゃべっていると言われ口を噤(つぐ)み、練習の準備にかかる。