第20章 【悪い奴】
力としてはもう衝動的にやってしまったようなものだった。一時の気まぐれなのか意外と本気なのかは知らないが及川が義妹を気に入ってしまったのは間違いがなく、一方西谷には女子っぽくないだの可愛くないだの言われ(西谷の場合表現が極端に下手なだけだったが)、気に入らないったらない。
なんとも言えないモヤモヤを抱え、帰宅すると今日は両親がいなくてそこがいつもと違うけど、義妹はいつものように迎えてくれた。それを見たら何故かたまらなくなって、
「ただいま。あ、美沙、ちょっとおいで。」
思わず言って義妹を部屋に引っ張り込んでしまった。そして今、義妹が戸惑っているのも分かってるくせに抱き締めてしまっている。
自分は悪い奴だ、義妹が自分の言う事なら大方は従う事につけこんでいるのだから。
美沙が妹になってからシスコン扱いされており結構経つが、実際力としては美沙を知らない奴に気安く触らせたくないし知らない奴が傷つけるのも許さない。特に事故みたいなものとはいえ自分の見ていないところで及川が美沙に触れたのは本当に気に入らない。一方で美沙を縛る権利などないのに何て俺は勝手なんだろうとも力は思う。なのに当の義妹は無条件に甘えてくると来た。きっとこいつは何か変と思いつつも深く考えていない。
そしてとどめに
「私、兄さんを根性なして思たこといっぺんもない。」
美沙は言った。ああ、
「可愛いな、お前は。」
今までまともに言ってやったことのない言葉を力は思わず漏らした。美沙は更にすりすりぐりぐりと顔を擦り付けてきた。喜んでいるのかな、と勝手に思ったりする。
美沙が気が済んですりすりぐりぐりをやめたところで力はごめんよ、と呟いて義妹を解放してやった。
「俺焦ってるのかも。及川さんがお前気に入ったみたいだし。」
「何で兄さんが焦るん。それにあの人が何で私を気にいるん。」
義妹の問いに力は答える。
「及川さんのはわからないけどお前が素で対応したのが気に入ったのかも。俺のはこっちが兄妹になって日が浅いのにお前をもってかれそーな気がしたからかな。」
ようわからんと美沙は首をかしげた。