第19章 【思わぬこと】
「本当にお前って奴は。頭自体は悪くない癖にちょいちょい抜けてて危なっかしいとは思ってたけどさ。相手が及川さんでまだ良かったよ。」
力はハアアァァァとため息をつき美沙の横に座る。
「ごめんなさい、心配かけて。」
美沙は項垂れてしょんぼりと言う。きっと義兄にどうしようもない奴だと呆れられているに違いない。しばらく義兄の反応を待ってみるが力は前を見たまま何も言わない。
「えと、ほな、私行くわ。」
義兄が口を開かないまましばし経ち、いたたまれなくなって美沙は言った。受け取ったハンカチを握ってベッドから立ち上がり、義兄の部屋から出ようとする。背後でゴソゴソ音がするのは義兄が着替えにかかりだしたからか。
「美沙。」
義兄に呼ばれて美沙はえ、と思った。着替え始めたのではなかったのかと思いながら恐る恐る振り返る。
見ればベッドの奥の方に座り直した義兄、にっこり笑って手を広げている。
「おいで。」
よくわからなかったが怒っている様子や愛想尽かした様子もないので美沙は言われた通りにベッドにもう一度上がり、義兄の前に座る。途端に義兄の腕が伸びて美沙の体を抱き寄せてきた。当然美沙はこれまた動揺した。頭をポムポムされるとかたまに手を引かれるとか何かあった時にはたかれるとかならあるが、義兄が自らここまでやるのは初めてだ。
「兄さん、どないしたん。」
力は答えない。黙って美沙の頭や背中をなでたりポムポムしたりする。美沙もつい甘えてしまい、義兄の肩に顔をすりつけてみたりしてまるっきり、
「動物か、お前は。」
力が苦笑する。
「兄さんこそ、急に抱っこしてきてどないしたん。」
「そうしたいと思ったから。」
わざとはぐらかしたとしか思えないずれた返事だったが今はこれ以上聞いても答えてもらえないと美沙は判断した。いいのか悪いのか義父母も今はいないしと思い、されるがままになる。
「ああ、」
力がふと呟いた。
「お前はホントいい子だね。」
「なんで。」
「俺みたいな根性なしのダメ野郎でも兄貴だって慕ってくれてこうやって甘えてくれるからさ。」
この人は何を言うのかと美沙は義兄に顔を向けようとしたが距離が近すぎることに気がついてやめる。