第18章 【及川の突撃】
及川がそう呟いた時、力の背筋に寒気が走った。どうやら美沙は自分でも気づかずにハンカチを落としていったらしい。が、それを及川に所持されるのは正直たまったもんじゃない。腹を括(くく)った。力は前に出る。
「お、おい。」
澤村が心配そうに声を上げ、力に道を開ける他の連中も皆心配そうに見る。とうとう及川の前に出た力は真っ直ぐ相手を見つめて言った。
「薬丸美沙の兄は俺です。」
腹を括ったものの緊張で少し足が震えているのを感じる。が、妹の為なら臆してはいけないと言い聞かせる。
「え、え、美沙ってやっぱりあの美沙なの。」
まだ理解していない日向が言うがいつもなら嫌味を言う月島ですらその鈍感ぶりを放置していた。及川はこれは面白いと言った風に笑う。
「そうか、君練習試合の時の。あ、そーいや君さ、俺の事美沙ちゃんになんてったの、何かアホの子とか愉快な人とか無茶苦茶言われたんだけど。」
「ああすみません、あいつ年の割に子供で聞いた事とか思った事すぐ口にするもんですから。」
「ちょっと、つまりそれって君が吹き込んだのは間違いない訳っ。何だろ、おにーちゃんも何気にひどい気がする。」
及川はブツブツ言うがすぐに顔を上げた。
「で、話戻して、よく覚えてないけど君少なくとも薬丸って名前じゃなかったよね。何かこう、慣用句みたいな。」
存在を忘れられがちなのは慣れているので力は静かに言う。
「俺は縁下です。」
「ああそう、そんな感じだった。で、名前違うのにホントに美沙ちゃんのおにーちゃんな訳。」
「そうです。」
きっぱり言う力に流石の及川も混乱した。
「え、え、え。」
「正確には今あいつは縁下美沙です。」
及川の1人パニックがひどくなった。
「え、前は薬丸で今苗字違うの、どゆことっ。何それ絶対妹じゃないでしょ、お嫁さんでしょっ、おとなしい顔して既に嫁とか羨ましすぎっ。」
何を言っているんだこの人はと力は呆れる。自分は16で美沙に至ってはまだ15だ、嫁もへったくれもない。力は今日も何故かいない岩泉に同情しつつ、
「い も う と で す。」
にっこり笑ってしかし強く言った。
「事情があって俺の妹になりました。」