第17章 【何に怒る】
「あーびっくりした。」
義兄はホッとしたように言った。
「いじめられたのかと思ったよ。」
「怒らへんの。」
「怒ってほしいのかい。」
美沙は首を横に振る。力は笑って言った。
「大丈夫だよ、及川さんはそんな器の小さい人じゃないと思う。大体人の妹にいきなり触るのが悪い、今度お前に触ろうとしたら粉だらけのとこ連れてって火花飛ばしてやりな。」
「兄さん、それ粉塵爆発。」
「爆発すればいいんだよ。」
穏やかな顔で恐ろしい冗談を口にする義兄に流石の美沙も怖いと思う。
「まったく、西谷といい及川さんといい何でお前に初対面で触るんだ。」
「兄さん、それは何に対して怒ってるん。」
「何だろうね。」
「ごまかしてるっ。」
だが力は義妹にそれ以上言わせない。
「ああそうだ。」
ここで力は思い出したように言った。
「もし今度及川さんと会って、一緒に相方の岩泉さんって人がいたら今日のこと訴えときな。」
「わかった。」
美沙が返事をすると力はいい子だね、と言った。その時の力が少し腹黒く見えたのは美沙の気のせいかもしれない。
次章に続く