第16章 【及川と遭遇】
「ううう、ひどいこと言うおにーちゃんだな。そういやその制服烏野だよね、誰かなあ。」
美沙は縁下力の名前を出すのはまずいと判断して黙り、そろそろ先を急ぐのでと適当な事を言って去ろうとしたが
「ああ、待って。」
及川に手を掴まれた。
「さ、触らんといてっ。」
ぎょっとして後ろに飛びのいた美沙の手は及川の手からするりと抜ける。ヒョロヒョロだと西谷や影山に言われまくる為コンプレックスの一つである小さな手はこの時は役に立った。
「ひどっ、そこまで逃げなくてもいいじゃんっ。」
とはいえ美沙にとってそれは無理な相談だ。西谷に手首触られても平気なのは慣れてる相手であることと西谷はそういう奴なんだと認識してるからであって他は義兄以外に触られるとビビってしまう。おまけに美沙からすれば及川は悪い奴ではなさそうだが得体が知れない匂いもして落ち着かない。
「慣れない人にそんなことされたらそらビビります。」
「そーいや目もそらしちゃって人見知りさんなんだね、うーんますます気になるなあ。烏野で君のおにーちゃんって誰だろ。当ててみよっと。」
誰がそこまでしろと言ったと美沙は言いたいが及川はすっかり夢中で考えている。
「んー、おにーちゃんだからマネちゃん達は除外だな。トビオにこんな妹いないしチビちゃんとも全然似てないから違うよねー。」
「当たり前や、私と血縁て影山や日向が聞いたら怒るで。」
美沙はうっかり初対面の相手に関西弁で返すが及川は聞いていないのか平気なのかなおも考えている。
「眼鏡君の身内にしては冷静じゃなさそうだし、ああピンサで入ってた12番の子かな、でもおにーちゃんって感じじゃないよね。」
月島、山口、今度この人にわざとボールぶつけてくれ、と美沙は考える。
「かと言って絶対ボーズ君じゃないな、おとなしすぎだし。」
「私はおとなしないです、べつに。」
美沙の突っ込みは続き及川の思考も続く。
「あとはリベロの子かなー、ああでも彼なら最初から妹がいることあたり憚(はばか)らず自慢しそうだね。ないってことは違うなー。」
見当違いすぎて美沙は吹きそうになった。ちょっと意地悪な気持ちになってええでええでそのまま悩んどき、絶対わからへんからと思う。