第16章 【及川と遭遇】
美沙はその時、帰ろうとして普通に道を歩いていたはずだった。
前にはジャージ姿の少年、バレーボールをやっているのだろうか、義兄が持っているバッグとよく似た物を肩から下げているのが気になってチラチラ見ていた。後で考えたら美沙も迂闊で距離をよく把握してなかったかもしれない。
とりあえずその時事故は起きた。
「いてっ。」
少年がバッグを肩にかけ直そうと揺すった瞬間、バッグは美沙に当たった。ごついものが当たったので流石に美沙は声を上げた。
「うわっ、すみませんっ。」
相手が慌てたようにいう。
「あ、う、別にお構いなく。」
ボソボソといいふと顔を上げると相手着ているジャージが目に入る。背中にはAOBA JOSAI VBCとあった。青葉城西、VBCはおそらくVolleyball Club の略、義兄の力から聞いた話を思い出す。
「何々、見とれちゃった。」
美沙がそんなことを考えていると相手の少年が振り向いて話しかけてきた。確かになかなかの美形とは思うがあんたさっきまでよそむいてたやろ何的外れなことを、アホの子かと思った美沙は
「アホの子ですか。」
そのまま口に出してしまった。
「のっけからひどいなっ。」
「ごめんなさい、その、兄もバレーボールやってるのでジャージのチーム名をつい見てました。青葉城西は強豪と聞いてますし。察するに貴方が主将の及川さんですか。」
力から普段はヘラヘラしているが影山の中学の先輩ですごいセッターだと聞いていた。どうやら正解だったらしく相手は本気で嬉しそうに反応する。
「わお、俺の事知ってるの。」
「ちょいちょい兄から話を。言動の突っ込みどころの多さから多分そうかなって。」
「君のおにーちゃんは一体何吹き込んでんのさっ。」
えーと、と美沙は言う。
「セッターとしては凄いけど女子にキャーキャー言われては相方さんにどつかれて一方で気になる相手にはどスルーされている愉快な人。」
力は流石に愉快な人とは言っていない。この辺は完全に美沙の主観である。そういえばその相方がいないことが若干気になる。