第16章 【及川と遭遇】
「あの爽やか君も違うな、彼の妹なら美人さんだろうし。」
「どうせ私は不細工です、余計なお世話や、帰る。」
「ああっダメだって。」
外見に触れられカチンときた美沙だが及川は美沙が肩から下げているガジェットケース(いつもスマホや関連の道具を入れている)の紐を掴んで引き戻す。さっき手を掴んで嫌がられたのが実はショックだったのか。
「1人でおられへんタイプですか、しょうもな。」
不快感MAXの美沙は義兄が聞いたら卒倒しそうなくらいきつい事を言うが及川はひどっと言ったものの堪(こた)えてない。
「ごめんごめん、別にそんな意味じゃないって。てゆーか君コンプレックスあるみたいだけど気にしすぎだよ、結構かわいいよ。」
「裏表激しそうな人の台詞なんか信用出来ひん。」
「じゃあ誰に言われたら信じるの。」
「兄さん。」
美沙がうっかり真面目に答えると及川はあははははと笑い出した。
「おにーちゃん大好きなんだね。ますます誰が当てたくなってきた。」
当てんでええ、兄さん困るやろからと美沙は思う。知ってか知らずか及川は考えるのをやめていなかった。
「うーんと基本はおとなしいならあのエース君かなぁ、いやでもさっきあれだけ俺にきっついこと言ってくれたから違うかなぁ。あ、」
及川は何か思いついたようだった。
「もしかして主将君っ。」
「ブーっ、外れー。」
美沙はざまぁと思いながら言った。多分この人はあまり試合に出ない義兄および成田や木下のことを忘れている。が、その方が好都合だ。
そもそも顔が似ているとか性格が似ているという方向でアプローチしたところでたどり着く訳がない。
及川はなおも考えるのに夢中で美沙はもう付き合いきれへんと判断し、この辺りでこそっと逃げた。
逃げたのはいいがこのアホは落し物をした。