第12章 【兄妹だから】
美沙は時々思う、谷地がいない時に限って男子排球部の誰かが妙な事を持ち込んでいるような気もすると。
それはこんな風に始まった。
「あっ、谷地さんいないけど美沙がいたっ。」
昼休み、おなじみ日向翔陽が1年5組の教室に駆け込んできた。見れば体操着のシャツを着て、片手には制服のシャツ、もう片手にも何か握っている様子だ。
「美沙っ、助けてっ。」
「日向、今度はどないしたん。」
聞きながらも日向の格好から何となく見当がついた。
「制服のボタン取れちゃったんだ、助けてっ。」
「あんたなぁ。」
美沙は呆れつつも鞄をゴソゴソして携帯用の裁縫セットを取り出した。
「はい。貸したるわ。」
所が日向は固まってしまい、そのまま何も言わない。美沙も困ってしまい言葉に詰まる。
沈黙することしばし。
「あんた、まさか。」
「自分でつけらんねえ。」
「やっぱりか。」
またも2人は沈黙する。
「つけたろか。」
ついついそう言ってしまう美沙であった。
「マジでっ。」
日向の顔がパアッと輝く。
「私裁縫得意やないから下手な縫い方になるけどそれでもええんやったら。」
「ラッキー、ありがとなっ。」
日向はニッと笑って、んじゃこれ、と脱いだシャツと取れたボタンを美沙に押し付けた。
美沙はしゃあないなぁと呟きながら仕事にかかる。