第11章 【義兄の恐怖】
向けた途端に嫌な予感どころか悪寒が走った。義兄の力が無表情で廊下に立ち、開いたドアからこちらを見つめていた。西谷が鈍感ぶりを発揮して、おー力ー、と呑気に声をかける。
「力ー、美沙相変わらずヒョロヒョロだぞ、こいつちゃんと食ってんのかーっ。」
「ちょちょちょちょちょっ、西谷先輩、あかんてっ。」
しかし此の期に及んで西谷は危機が迫っていることに気づかない。義兄の力は無表情で失礼します、と言って1年5組の教室に入ってくる。なんだなんだと5組の連中が見つめる中、力はズンズンと近づいてきた。美沙と谷地の方が寿命が縮みそうな勢いである。現に谷地はあわわわわと青ざめた、気の毒に飛んだとばっちりである。
「にににに兄さん、その、もちついてっ。」
だが力は義妹の言葉を聞いていない。さすがの西谷も気がついて顔色が変わった。
「ち、力っ、何だよ、何怒ってんだよっ。」
「西谷、」
力は静かに言った。
「何お前、人の妹に触ってんの。」
多くを語る必要はないだろう。それはもう男子排球部主将、澤村に迫る圧力だった。西谷はすんませんでしたあああああっと叫び美沙の手首を離して笑えるくらいビシィッと気をつけをする。
「わかりゃよし。」
力は元の調子に戻って言った。
「お前に用があったのに3組の教室にいなかったからさ、行き先聞いて来たらこれだ。まったく、勘弁してくれよな。」
西谷は恐怖からか声が出ない、うんうんと頷き1年5組の教室からダッシュで逃げていこうとしたが用があると言っていた力に首根っこをつかまれてしまう。
「せやから私言うたのに。」
美沙がボソッと呟くと力に美沙、と呼ばれた。
「は、はひ。」
「お前も相手が西谷だからって油断するんじゃないよ、こだわらないたちなのもほどほどにな。」
義兄は微笑んでいたがそこからくる圧力に美沙は戦慄した。