第10章 【愚問】
「何があったの。」
「知らん奴がひどい事言うて来た。」
「いつもほっといてるお前が泣くなんて相当だな、何言われた。」
美沙はグスッと鼻をすすった。
「私が、」
「うん。」
「私が妹なんて、縁下先輩が可哀想やって。」
力は背筋が冷たくなる心持ちがした。義妹は涙声のまま続ける。
「縁下先輩は人格者やけど私は言葉も直さへんオタクで偏屈でしかもブスやし何で可愛がってるんかわからへんって言うねん。ホンマは私が嫌いやのに無理してるんちゃうかって。」
高校生でそんなことを言う奴がいるのかと力は思うが作り話をするような義妹でない。
言った奴、または奴らが野郎か女子か混合か知らないがもし野郎のみならぶっ飛ばしたい気分だ。
「酷すぎるな。喧嘩したのかい。」
本当は避けてほしいが喧嘩してしまっても仕方がない気がする。
「我慢した。」
力はホッとした。
「ホンマは教科書とかシャーペン投げたりたいレベルやったけど。」
「偉かったね。」
力は義妹の頭をポンポン叩く。
「だって私がキレたら兄さんやお父さんとお母さんが困るもん。」
ああくそ、と力は思った。きっと美沙に嫌ごとを言った奴は美沙の傾向をよくわかっていてこいつが迂闊に言い返せないのを利用したに違いない。
「兄さん」
涙声で美沙が言った。
「兄さんは私嫌いちゃうやんな。」
愚問だと力は思った。
「当たり前だろ。」
現にここにいて自分を兄と慕う者が突然いなくなる。考えただけで恐怖だ。
「美沙、」
「あい」
義妹は、はいと言おうとして子音がぶっ飛んだらしき返事をした。
「自信持ちな。お前は大事な妹だよ。」
美沙は大きく何度も頷いた。
「いい子だね。」
力は呟いて義妹の頭を撫でてやった。
次章に続く