第10章 【愚問】
その日は部活が終わって力が家に帰ると異変があった。いつもどおり二階に上がったのに義妹が出てこない。
嫌な予感がすると思った力はすぐ義妹の部屋へ向かい、ドアをノックした。返事がない。
「美沙、入るよ。」
声だけかけ、力はドアを開けて部屋に足を踏み入れた。普通の女の子なら入ってこないでとか何とか騒ぐところだろうが美沙はそういう事を言わないのをよく知っている。
その義妹の部屋に入ると明かりはついていて、当の本人はベッドに座り込んで最近スマホゲームで流行っている大きなきのこキャラのぬいぐるみを抱き、それに顔をうずめていた。
ちなみにこのぬいぐるみは力達排球部の2年生組が野郎同士で遊びに行った時に田中がクレーンゲームで釣ってしまい、俺はいらないからやると言って力に押し付け、困った力が持って帰って美沙にいるかと聞いたら美沙は大喜びして引き取っていったものである。
大好きなキャラなので大事にしているようだ。力の声と入ってきた音を聞いていた美沙は何事か言った。ぬいぐるみから顔を離さないので声が篭(こも)っていたがおかえりなさい、と言ったようだ。
「ただいま。帰ってきていきなりだけど、どうしたの。」
「何もない。」
「とりあえず抱っこしてるの置いてこっち向こうか。」
美沙はうう、と唸って渋々言われた通りにした。美沙は力の言うことは大体聞く。こちらを向いた義妹の顔が明らかに泣いた後だったので力は内心動揺した。が、自分がパニックになってはいけない。