第56章 【一旦の終わりと広がる物語】
そんなこんなで力と美沙の縁下兄妹はお互いを知り、依存しあった挙句に兄妹の関係を踏み越え、人目をしのびながら愛し合い、知らぬ者や気づかぬ者の前では兄妹を演じながら日々を過ごしていた。
そんな彼らのとりとめのない物語にそろそろ一旦の区切りをつけたいところだがあともう少し話をしよう。
縁下兄妹はその日休日で2人して買い物に出かけていた。他愛もない話をしながらのんびり歩いていた訳だが、そこへ見知った二人組にでくわした。及川と岩泉だ。
「あ。」
先に声をあげたのは岩泉だった。
「美沙ちゃんっ。」
次に及川が声を上げ、何を思ったのか美沙に飛びつこうとする。憧れのマネージャーに突撃を試みるどこぞの背番号4番と5番に似ているかもしれない。当然美沙は避けようとする訳だがそれより早く力が美沙を引き寄せて後ろに庇い、及川は失速して地面と仲良しする羽目になった。
「いったーい。」
それを見た岩泉がたちまちのうちに激怒する。
「てめーっこのクソ川っ、路上でセクハラ未遂とか何やってやがんだこのクソがっ。」
「ちょ、岩ちゃん、痛い痛いっ。」
「というか俺の前でどういうおつもりなんです。」
「あ、縁下君いたんだ。」
「今のは確実にわざとだな。」
力がぼそりと呟くので美沙は不穏なものを感じてアワアワする。
「と、とりあえずお2人ともこんにちは。」
「うちの美沙がお世話になってます。」
「おう。」
「ヤッホー。」
大変とってつけたような挨拶の後、岩泉が早速言った。
「んで、そこの不純な兄妹は何だ、デートか。」
岩泉に言われた兄妹は2人して動揺した。
「不純って。」
「ちょ、岩泉さん、しーっ。ここお外っ。」
「事実だろーが。」
岩泉は兄妹を軽く睨んで言った。
「いくら義理っつっても影でくっついてる時点で何となく不純だわ、見た目潔癖そうな分尚のことタチがわりぃ。」
「ぐっ。」
縁下兄妹は揃って唸る。
「えとそれはその」
「否定しづらいけどえらい言われようや。」
「そうだよ岩ちゃん、不純だなんて、どうせこの子ら大したとこまで進んでないよ。」
「なんの話してはるん。」
「あああの、フォローしたいのか火に油注ぎたいのかどちらなんですか及川さん。」
「ええいっ、全員ウルセーッ。」
岩泉は声を上げる。