第54章 【外伝 黒川の疑問と安心】
「この子は俺の妹なんです。」
聞かされた多くの者がそうするように黒川もまた力と美沙と呼ばれた少女を交互に見比べた。
「お前に妹いたか。そもそも本当に妹なのか、顔が全然違うし聞いた感じ言葉もこっちのとは違うようだが。」
縁下力は困ったように微笑んだ。
「妹です。正確には最近妹になりました。」
乏しい表情からは読み取りづらいが黒川は動揺して固まった。これもまた多くの者は経験する。
「あの、私、」
顔の似ていないその縁下妹が口を開く。
「親がいなくてばあちゃんに育てられてて、ばあちゃんは関西人だったんで喋りがそうなっちゃうんですけど、とにかくばあちゃんも亡くなったんで縁下さんちの子になりました。」
概要は理解したが黒川はやはり驚きを隠せない。他人から見ればあまり外に出ていなかったけれど。
「随分と波乱万丈な人生だな。」
黒川はそういうのが精一杯だった。
「本人にとっても、縁下、お前にとっても。」
「ええ確かに。俺も最初は滅茶苦茶悩みました。でも今はこの子が妹で良かったって思ってます。」
「そうか。」
黒川は一瞬目を閉じ、今度は美沙の方を見る。
「それで、妹の方が目を合わさないんだがこれは。」
「ああ、人見知りがひどいだけです。まだ受け答えが出来てるだけこの子にしては上出来です。」
内心怖がられているのだろうかと気にしていた黒川は顔に出さずにホッとする。
「慣れたり開き直ったら凄いですよ。」
「覚悟しておこう。」
ここで話を黙って聞いていた縁下美沙がとうとう口を開いた。
「ちょ、兄さん、会(お)うたばっかしの人にいらんこと言わんといて。」
「どうせすぐバレるから一緒だろ。」
「なんという扱い、うちの兄さん前からこんなんなんですか。」
ここに来て縁下美沙が初めて黒川に目を合わせ、バリバリの関西弁で言ってくる。黒川の口元が少しだけ緩んだ。
「さぁ。ただ一年の頃から田中とか西谷の扱いはうまかったな。」
「さすが兄さんクオリティ。」
「縁下、こいつは何を言っている。」
「こら美沙、お前こそ会ったばかりの人の前でネットスラングはやめろ。」
「大変失礼いたしました。」
「いや、構わないが。」
黒川は珍しくブブと吹き出しそうになった。