第53章 【水着姿】
烏野高校1年5組の教室にて、女子2名が机に突っ伏していた。
「憂鬱や。」
「私も。」
縁下美沙と谷地仁花である。
「水泳は選択制でもええと思わへん。」
「はいはいっ、谷地仁花激しく同意ですっ。」
「せやんな、その存在は否定せえへんけど全員に強制することないやんな。」
「まったくですっ。」
美沙が言い、谷地がガバッと体を起こして同意する。さて、こいつらは何をゴチャゴチャ言っているのか。理由は簡単、今日の体育の授業が水泳で水着姿を人前にさらさねばならないからである。
「うう、発育いい人ばっかの中にこんな貧相が混ざるなんて、色々ごめんなさい。」
「私かて影山と西谷先輩お墨付きのヒョロヒョロのぺったんやし、まともに泳がれへんしどないしょう。」
影山と西谷は美沙にぺったんだとまでは言ったことがない。美沙の思考はやや混乱している。
「しかしもうこれはアレやろか、腹括るしかあらへんやろか。」
「括りたいけど括りきれないよ、美沙さん。」
「せやんなぁ。」
こうして小柄な少女と細っこい少女は2人してため息をついた。水泳の授業は後二時限先である。
が、グズグズ言っても時間は経つのである。その二時限後、美沙と谷地は暗い顔をしながら女子更衣室で着替えてプールに向かった。
「とりあえずさ、あんまり他の子見んようにしよな。凹んでまう。」
「そそそそうだね。でもコース入って距離が近くなって目に入っちゃったらどうしよう。」
「ひ、ひたすら泳ぎに集中やで、谷地さん。水ん中は油断したらあかんで、きっと。」
「ラ、ラジャッ。」
そうやって2人は授業開始までの間にお互い励まし合った。凹むからとあまり周りを見ないようにしていた為気づいていなかったが、1-5の連中には逆に2人をチラチラ見ているのがいて何だあれ小動物か、とかやべえ谷地さん可愛いとか縁下の手足折れるんじゃねとか縁下は日に当たったら溶けるかもな、などと言い合っていた。
その後、完全インドアの動画投稿者はクロール的な泳ぎでギリギリ25メートルは泳いだもののターンしてまた25メートル泳がねばならないところで途中何度もあっぷあっぷしていた。谷地は割と上手に泳いでいて、美沙は外見以前にこの泳ぎの有様を何とかせなあかんな、と思わざるを得なかった。