第52章 【時に義理がたく無自覚で】
一方美沙はその頃スマホを握り、ベッドに転がったままだった。ぼーとしていると部屋のドアがノックされる。
「はい、どーぞ。」
「終わった。」
疑問形で言いながらドアを開けて顔をのぞかせたのは義兄の力だった。力はそのまま入ってきて美沙が転がっているベッドの端に座る。
「うん。」
「何か言われたかい。」
「んー、とりあえずびっくりしたけどやっぱりかって感じやったみたい。」
「ホントバレー以外でも勘がいい人だな。」
力が苦笑する。
「あと、律儀な兄妹やなって。」
「そりゃどうもってとこだな。」
力は言って兄妹はしばし沈黙する。やがて力が寝転がったままの美沙を抱き起こした。
「兄さん」
「嫌なのか。」
「ちゃうて。お父さんもお母さんも下にいてはるよ。」
「母さんは食器片付けで忙しくしてたし父さんは今頃テレビ見てるよ。ひょっとしたら寝てるかもね。」
そう言われても落ち着かない美沙は目をキョロキョロさせる。そんな事をしているうちに力に手を開かされ、握っていたスマホを取り上げられた。あ、と声を上げて美沙は取り返そうとするがうまく行かない。力は素早く取り上げたスマホを美沙が席を立ったきりそのままにしていた勉強机用のコマ付きの椅子に置いたかと思うとその椅子を押しやって、すぐには回収出来ないようにしてしまった。
文句を言おうとした美沙だが義兄の唇が重なり、黙らされてしまう。美沙が黙ったのを確認したらしき力は更に美沙が肩から下げているガジェットケースの紐に手をかける。美沙はイヤイヤをしたが力はやや強引に美沙の両手首を掴むとそのまま腕を上げさせ、まるで子供のセーターを脱がせるようなのりでガジェットケースを外してしまった。
「これでよし。」
取り上げたガジェットケースを床にそっと置き、力は満足げに言ってそのまま美沙にのしかかった。さっきまで緊張していたところなのに美沙の心臓はまたドキドキし始める。義兄の体温と息遣いを感じる。義兄からもらったブレスレットをつけている両手首はまだ掴まれたままで、美沙はまるで自分が捕食者に捕まり、食される寸前の草食動物みたいだと思った。
「兄さん、はなして。」
「だめ。」