第52章 【時に義理がたく無自覚で】
縁下美沙はスマホの画面を眺めて唸っていた。
「どないしょう。」
表示されているのはメッセージアプリの画面、開かれている宛先には"及川さん"となっている。義兄の力が見たら無表情確実、下手すれば魔王様モードになりそうだが美沙のこれにはもちろん訳がある。
先日うかうか義兄の力と一線を越えてしまった訳だが、それを及川に報告するか否かで悩んでいるのだ。どっちかというとメッセージアプリでのやり取りでおちょくられている(と、美沙は思っている)ことが多いが及川には要所要所で世話になっているのも事実、それに及川は兄妹がもともと危うい状態であることを気にかけてもいた。律儀な美沙はそれをもちろん覚えていて今の義兄との関係を黙っていてもいいものかと考えていたのだ、力にはなるべく他にもばれないようにとは言われていたのだけれども。その為義兄に聞くかとも思った。が、大体どういう表情になるやら見当がつく。
「うーん。」
ベッドの上でコロコロしながら美沙は再び唸った。しばらくこいつはどないしょうと悩みながらコロコロし続けたが途中で気持ち悪くなったのでいったん止まる。動かないことしばし。
「もうええわ。」
ガバッと起き上がって美沙は言った。
「四の五の言わんとやっぱり兄さんに聞こ。」
ビビりの縁下妹は腹をくくると強い。
という訳で美沙は義兄の力が部活を終えて帰ってくると即座に尋ねた。力は一瞬固まり、美沙が思った通り無表情になったがすぐにいつもの落ち着いて考えている顔になった。
「いいよ。」
美沙が思うよりあっさり力は言った。
「世話になってて気にもかけてもらってるのに黙ってるなんて不義理もないよな。」
それに、と力は付け加える。
「必要以上にお前の周りウロウロされるのも困るしな。」
義兄にとっては最後の内容がもっとも重要に違いないと美沙は思い、何か義兄から黒いオーラを感じた気がして逃げるように自室に戻った。