第52章 【時に義理がたく無自覚で】
そうして美沙は早速スマホをスリープモードから復帰させる。勢い余って動画視聴サービスのアプリを開いてしまった。普通ならホームボタンを押し、画面に戻ってメッセージアプリを起動するところだ。しかし美沙はホームボタンを押さない。上から下にスワイプして通知領域を引き出し、そこに表示されているメッセージアプリのアイコンをタップして起動させるという普通の人から見たら訳の分からない事をした。
実際は難しい事をしている訳ではない。とあるアプリを使ってよく使うアプリを通知領域に登録、そこから起動出来るようにしているのだ。ホームボタンをいちいち押してフォルダ開いてアプリを起動するという手順を鬱陶しがった結果である。義兄の力には究極の面倒くさがりだなと言われたが。
いずれにせよ美沙はメッセージアプリを起動、今度こそ"及川さん"と表示された宛先を開き、とりあえず壁の影から顔を覗かせている風のスタンプを送ってみる。すぐにテヘペロといった感じのスタンプが返ってきた。何となくユーザーの趣味がうかがえる。美沙がメッセージを打とうとすると先に向こうからメッセージが入った。
"ヤッホー、お疲れー。美沙ちゃんからメッセくれるなんて珍しいね♪"
相手が岩泉なら及川はとっくに大量の殴るスタンプを送られているのではあるまいか。美沙は思いながらフリック入力を続ける。美沙の入力スピードにシステムが追いつかなかったのか漢字変換が若干遅れた。
"こんばんはです。実はちとお耳に、じゃなくてお目に入れたいことがあって"
"www 上手いこと言うねー、流石関西人!"
"そればあちゃん。私は言葉を受け継いだだけやし。"
"嘘だ、絶対ノリも引き継いでる!"
"なんという扱い"
"で、"
送信ボタンをタップしすぎたのか、ここで及川のメッセージが分割された。
"肝心のご用は何かな?"
美沙はここでふぅ、と息をついた。やはりいざとなると緊張する。少し悩んでしかしどうせどんな書き方をしたところで同じと考え、特攻する勢いで報告内容を打ち込んだ。
"線越えちゃいました"
"?"
"兄さんと"