第51章 【ザリガニ釣り】
もっともそんな事を前日に愚痴(ぐち)ってたら成田にそれだけじゃないだろどうせと言われてしまった。
「心配しなくても西谷が妹さんをかっさらうってこたないだろに。」
力はこの時、でも、と小さく呟いたのだった。
「美沙は結構ノリに引っ張られるからさ。」
成田は逆にため息をついて言った。
「だから最近のお前は病気だって言われるんだよ。」
あまりよろしくないことを思い出して力は1人首をブンブン振った。
一方美沙と西谷と日向はザリガニ釣りを続けている。
「よっと。」
「お、翔陽、やるじゃん。」
「ゲットォォォ。」
「日向、声おっきい。にしてもこれ水ん中でどないなってんねやろ。」
「お前のスマホで撮れねーか。」
「あかんあかん、水中仕様ちゃうから生活防水程度やから。あ、でも水面くらいなら写せそう。」
美沙はスマホを取り出しできるだけ川面に近づけ、見える範囲を動画で撮ろうと試みる。力は妹が足を滑らせたりスマホを落としたりしはしないかとハラハラし、本を傍(かたわ)らに置いて様子を見守る。いざとなったらすっ飛んでいく算段だ。
「撮れたー。」
美沙が嬉しそうに言う。
「こっちはまた釣れたぞっ。」
「ノヤっさんすげーっ。」
「にしてもアメザリばっかりやねぇ。」
「ザリガニはザリガニだ、気にすんな。そんなんじゃ男がすたるぞ。」
「西谷先輩、私生物学的には一応女子です。」
「わりわり、お前相手だとつい。」
「まあええんですけどって、兄さんモチついてっ。」
無表情で西谷を見つめる力に美沙が慌てる。
「西谷、お前マジで次のテスト手伝わないからな。」
「おい待て勘弁してくれよっ。」
「ノヤっさんノヤっさん、ザリガニ逃げるっ。」
「やっべ、捕まえろっ。」
「俺の位置無理、美沙パスっ。」
「何でやねんっ。」
「とか言ってこの馬鹿美沙っ、乗り出すなっ。」
西谷が逃したザリガニを捕まえようと美沙が川に体を乗り出し、力は慌ててその体を抱きとめる。
「捕まえたで。」
「美沙っ、でかしたぞっ。こいついっちゃん大物だっ。」
状況にまだ気づいていない美沙は呑気にザリガニを西谷に渡す。