第49章 【谷地の主観】
力と美沙の縁下兄妹は兄妹の一線を越えるというそんな激動の1日を過ごし、あろうことかほぼ一晩中一緒にいた。
そうして次の日の朝、美沙はスマホから響く合成音声の楽曲で目を覚ます。義兄の力は既にいなかった。朝練があるのだからいたら問題ではあるが美沙は小さくため息をついた。
「やってもた。」
体をぎゅっと縮こまらせる。これでもかと義兄と触れ合った感触が蘇り、改めて思い起こすと顔から火が出る思いである。しかし美沙もまた後悔はない。このまま思いを押し殺したまま過ごす方がきっと耐えられなかったと思う。ただ、
「ばあちゃん、ごめん。」
美沙は呟いた。亡くなった祖母は今頃彼岸でどう思っているのか。もし存命していたら未成年同士で何ということだとカンカンに怒り、力を呼びつけて怒鳴り散らした挙句、美沙を学校以外家から出さなくしたかもしれない。祖母は同年代の中でもかなり厳しい観念を以って美沙を育て、しかし少しでも遅くなったり暗くなったりすると美沙を送り迎えしたりするような人だった。結果としてそれは孫を過保護にしていた訳で、更には世間から遠ざけられた分孫には違う方向に特化するという反動が起きてしまった。
後で考えれば娘である美沙の生母に先立たれたのが堪えていて、孫も同じになっては困ると思っていたのかもしれない。子供にプライバシーなぞ生意気だとまで言うような厳しさに反発も覚えたものだがあれは逆に溺愛されていたのだと美沙は思う。
だがもし祖母が彼岸で怒り狂っていたとしても今は義兄の力以外の相手を自分は考えられなかった。
「ごめん、ばあちゃん。」
美沙はもう一度呟いた。
「やっぱりあの人が、兄さんがええねん。」
しばらくグチャグチャ考えた挙句、そろそろ時間なので美沙は顔を洗いに下に降りた。