第48章 【狂っている】
「困ったな。」
「何が。」
美沙は尋ねる。むしろ自分がここまで愛されて嬉しくも困惑状態なのだが。
「及川さんがお前の周りやたらウロウロするのってさ、」
「うん。」
「お前いじめた時の反応が楽しいの気づいてるからかもな。」
美沙は飛び起きかけた。
「そ、そんなことないもんっ。別に私は普通やもんっ。」
「お前はそうだろうね。」
力は言って飛び起きかけた美沙を押さえ、またベッドに寝かせてしまう。
「兄さんがまた意地悪するー、自称ドMやけど絶対ドSやー。」
布団に顔を埋め、美沙は甘えたモードのまま足をバタバタさせた。
「そうか。じゃあもっといじめてやろうかな。」
「いややっ。」
美沙は声を上げ、転がって逃げようとしたが徒労に終わった。一方逃げられないようにがっちりと美沙を捕まえた力はその耳元でこう言った。
「逃がさないって言ったろ。」
いつもより声が低かった。美沙はビクッとしてそれ以上抵抗するのをやめた。
結局力はその日両親が泊りがけで帰ってこないことをいい事に美沙で好き放題に遊んだ。美沙は美沙でいつかのように甘えたモードのまま、今日あった事を忘れるかのように力にベタベタした。
そうやって後ろから力に抱きついてスリスリグリグリやりながら美沙は言った。
「兄さん、大好き。」
「俺もだよ。」
「お願いやから置いてかんといて。」
「それはこっちの台詞だって。」
美沙はうん、と言って満たされた心持ちで目を閉じる。そして思った、狂ってるんは私もや、と。
次章に続く