第43章 【岩泉の心配】
「しかしまぁ、その、何だ。」
岩泉は言い慣れないといった感じで頭をガジガジかきながら言った。
「烏野の6番とグズ川がお前を気にすんのうっすらわかった気がする。」
「えと、すなわち」
美沙はためらいがちに尋ねる。
「さっきも言ったけどお前は真面目で、よっぽどわりぃとかひでぇ奴じゃなきゃ無下(むげ)には出来なくて相手に対して一生懸命やろうとすんのがいいんだろうな、そんで早々の事がなきゃ裏切らない。」
「私は別に。」
「ああ、おめえにとっちゃ当たり前なんだろうよ。ついでにおめえは1人で抱え込む。」
美沙はうぐっと唸る。
「兄貴はお前のそこが気に入ってるのと1人抱えるの心配なのとで過保護にしてるってとこか。」
岩泉は一旦言葉を切った。美沙は逆に黙っていて、しかし考えていた。
「だいたい合(お)うてる思います。」
しばし考えた後に美沙は言った。
「実際、もうちょい自分を大事にせえとかどこにも行くなってよう言われてて、何か、こない言うたら怒られるやろけど、私が1人で抱え込んでどっかの池にドボンするとでも思ってるみたいな感じがようあるんです。そんな心配せんでも私はむしろ死にたないから縁下美沙になって、そんで今幸せやのに。」
「死にたくなかったから今の家に来た、それ兄貴に言ったことは。」
岩泉はポツリと言った。
「初めて会(お)うた時に。ようもらわれるの決心したなって言われて。」
ああ、と息を漏らして岩泉はなんてこったと言いたげな顔で一瞬天を仰いだ。
「それか。」
「え。」
「おめえの事だ、当たり前の顔して言ったんだろ。」
「だって、」
「ああ、いいいい、後はだいたい俺でもわかるわ。」
そして岩泉は美沙に向き直って言った。
「兄貴の事で辛くなったら誰かに言えよ。親は難しいだろうけど話のわかる大人とか、せめて烏野でバカ系じゃない奴とか、まぁ最悪クソ川通してくれりゃ俺が聞いてやるわ。」
「いえあの、」
「こーなったのも何かの縁だ、俺だって死なれるのは後味悪いしよ。」
「ご心配おかけします。」
「おめえはホント面倒な奴だな。」
「あ、う、ありがとうございます。」