第43章 【岩泉の心配】
「おめ、まだそんなこと言ってんのな。とぼけてんじゃない分タチわりぃわ。」
「えと、その、私が言いたいんは、兄さんが、まさかって話で。」
「んじゃお前は。」
「私は危ないかもしれへん。」
岩泉は美沙をしばし見つめ、それから言った。
「そんなこと言い出すくらい兄貴が好きか。」
美沙は黙って頷く。
「じゃあ仮に踏み越えちまったとしてだな、」
岩泉は続ける。
「バレてもし周りから許してもらえなかったらお前どうすんだ。」
もちろん美沙に答えられるはずもなく、岩泉はまあそーだろうなといった雰囲気だった。
「あんま入れ込むと、叶わなかった時がつれぇぞ。別にあの兄貴だけが全てじゃないだろ。」
それこそ兄のようなノリで岩泉は言った。美沙はいつも以上に目をそらす、どころか俯いていた。言われていることはよくわかる。だがそう言われても他に考えられない。名前が変わり、烏野に来て、義兄の力を通して排球部の連中とはそれなりに良好な関わりを持つことが出来た。一時的とは言え青城のメンバーとも話が出来た。しかしそれでも、どうしても、一番は義兄だ。最初に会ったあの時、初めてお互い話したあの時に思ったのだ、妹になるのならこの人を泣かせたくない、この人の為に頑張りたい。それはすぐ美沙の中で当たり前にやるべきこととなり、だからその後になってこう言ったのだ。
"貴方の妹だからです"
"私はあの人の、縁下力の妹ですから"
俯いたままぎゅっと身を縮め小刻みに震えだす美沙に岩泉はハァとため息をついた。
「とは言ったものの、クソ川はやめとけ。あいつはお前が真面目なのにつけこんで浮気しまくりそーだ。」
美沙は思わずぶっと吹いた。
「及川さんカワイソス。」
「顔笑ってんぞ。」
「岩泉さんかてわろてはりますやん。」
「あいつはもう3べんくらいフラれりゃいいんだ。ただでさえキモ川だってのに。」
「仲よろしいなぁ。」
「おい、今時そんな関西弁使う奴いんのか。」
「多分おらん。私のはばあちゃんの影響やと思う。」
「何だ、古くせーのかよ。」
「レトロ言うてください。」
「物は言いようだな。」
「岩泉さんからまさかの弄りきたっ。」
岩泉はふと笑った。
「単純な奴。」
「あ、う。」
美沙はたちまちのうちに顔を赤くする。