第42章 【弁慶の七つ道具】
「何でお前そんな用意いいんだ。」
影山が美沙に言った。
「ばあちゃんに持たされてた。それに自分も万が一があるし。個人的には裁縫道具くらいは嗜みな気ぃもするけどまぁそれはそれやね。」
「というか美沙さん、他にも色々持ってるよね。」
谷地が言う。
「そんなにか。」
影山が首を傾げた。
「えーと、スマホ用のバッテリーパックと充電用ケーブルとケーブルにつけるアダプター各種と携帯用鋏とメモ帳と糊と櫛と鏡とリップクリームとホッチキスと毛抜きがあったかな。」
「すげーっ。」
日向が何故か感心する。
「櫛とか鏡はわかるけどよ、持ちすぎじゃねーのか。」
「そない言うけど影山、意外と急に要ったりするんよ。」
「スマホ関係のなんか他の人に貸してって頼まれたりするしね。」
谷地に言われて美沙はうんうん、と頷く。
「どっかのロボットみてえだ。」
影山がボソッと呟く。
「どっかのロボットちゃうけどばあちゃんにはよう言われとった事がある。」
「何。」
日向に聞かれて美沙はえーと、と一瞬躊躇う。
「弁慶の七つ道具。」
言った瞬間谷地が吹き出し、針を動かす手を一旦止めて大笑いしそうになるのを必死でこらえる。
「美沙さんのおばあさん、お、面白い。」
谷地がピクピクする一方、日向と影山はキョトンとしている。
「後でうちの兄さんに聞いてみ。」
美沙は2人に言った。
そんなこんなで5組の連中の多くが不思議そうに見ている中、美沙と谷地はボタン付けを終え、シャツを影山と日向に手渡した。
「谷地さん、美沙、サンキューっ。」
「わり、助かった。」
「どういたしまして。」
「あんまほたえたらあかんで。」
「美沙、今何て。」
「ごめん、あんまりふざけて暴れたらあかんでって言うた。」
「オッケー。」
「ホンマに大丈夫かいな。」
「いちいち細けえよ、お袋かお前は。」
「あんたら2人共うちの兄さんとか菅原先輩によう心配かけとるやろ。」
美沙に言われて影山はうっと唸り黙り込んだ。