第40章 【出来心とその顛末】
外では女の子っぽくない自分を貫き、自分は縁下力の妹だからと強がっている癖に人が見ていないとこのザマである。
だがそれも仕方ない、薬丸だった頃はその境遇と人見知りで結構な無茶苦茶を言われっぱなしだった。今でも時折嫌な目に遭うが、あの頃はある程度強がらなくてはとても耐えられるものではなかった。力や及川からツンデレ呼ばわりされるのはこの辺が原因か。
グチャグチャ考えながら美沙はコロコロし続け、独り言も言い続けた。
「淋しい、兄さん早よ帰ってきてー。ちゅうかホンマはもっと抱っこしてほしいけど言われへん、無理ー。」
「何で。」
「だって兄さん部活あって疲れてるやーん、仮にも縁下力の妹がそれくらいわからんでどないするんよー、自分ばっかりってそれどんだけアホの子なんよー。」
いつもは必要以上にやらない、語尾伸ばしまくりの美沙の喋りはそれこそ月島が聞いたらアンタがモノホンのアホの子だと言いそうなレベルだった。
「アホの子思われるの嫌やもん、それに私から抱っこしてとか言うてええもんかってゆー。だってお父さん達に悪いやーん、バレたら多分えらいことやーん。」
これはひどい、重症である。美沙は更にコロコロして布団が巻きついてきている。
「いや言えよ。」
「むーりー、私悪女みたいな扱いになってまうやーん、普通そう思うやろー、そこまでわからんほどボケちゃうもーん。」
「うるさい馬鹿、じゃない、阿呆。」
ここにきて美沙はやっと異変に気づいた。あれ、と思う間もなく布団をひっぺがされ、体は掬い上げられる。気がつけば制服を着たままの義兄の力の顔がアップになっていた。
「ににににに兄さんっ。」
美沙はパニックになった。最悪だ、力が帰ってきた事にまったく気づいていなかった。恥ずかしすぎて逃げようともがくがやはりと言うべきか力は離そうとしない。
「まったく、お前と言う奴は。」
「ごご、ごめんなさい、もうせえへんからっ。」
「何可愛いことしてくれてるんだ。」
「いいいい、いやそのただの出来心で別に兄さんに含むところはなく、って、あれ。」
パニックできちんと力の言葉を聞いてなかった美沙は穏やかに微笑む義兄の顔にキョトンとする。そして義兄は美沙の耳元でため息まじりに言った。