第40章 【出来心とその顛末】
図書室に留め置かれる日ではないその時、どういうわけだかまた義父母が不在だった。美沙は義母の代わりに畳んだ洗濯物を義兄の力の部屋に運んでいた。まだ部活から帰っていない義兄の部屋に入り、運んだ洗濯物を机に置く。いつもならそのままとっとと部屋を出て自分の趣味に勤しむところだった。
しかしこの日美沙は出来心でしばし義兄の部屋に滞在した。
さすが縁下力と言うべきか部屋は綺麗に片付けられ、机の上もすっきりしている。大型ノートパソコンを置きっぱなし、USBポートに必ず何らかの機器が繋がっててその配線も若干カオスな自分とは大違いだ。(もっとも美沙の部屋自体が散らかってる訳ではないが)
兄さんはいつもここで過ごしてるんやな、と美沙は当たり前のことを考えつつ、ふとベッドが目に入った。
初めて義兄に抱っこされてしまったのはここだ。あらためて思い出すと流石の半分ボケも顔が熱くなる。是非は置いといて力はそれ以降人目や両親の目を盗んでは美沙を抱き締め、なかなか離さないようになった。ただ、自分がすっかり力に甘えている一方で力もまた自分を大事にしてくれている事はわかる。そこまで考えて急に美沙は胸が苦しくなった。
「何で。」
自分でも驚いて思わず独り言を呟く。
「あかんやん、どんだけ甘えてるんよ。」
言いながらも義兄に抱っこされる感覚を思い出し、こみ上げてきた切なさを美沙は我慢することが出来なかった。
気がつけば美沙は義兄のベッドに潜り込んでいた。あかんやろと思う自分とええやんちょっとだけと思う自分がせめぎあい、結局ええやんと思う自分に従ってしまう。
布団を手繰り寄せ、顔を半分埋めて体を丸めた。兄さんの匂いがすると思う。義兄はどう思っているのか美沙にはわからないがあかんと言いつつも自分が結局義兄に抱っこされているのはそうしたいからだった。今も大概甘えているが本当はもっと甘えたい。しかし美沙はどうしてもそこで若干遠慮してしまう。気づけばあかんとかちょ、兄さんと言ってしまう。
美沙はここまで考えてうううと唸り、布団を抱き締めながらコロコロした。
「ホンマは嫌やないのに。」
美沙は呟き少しだけベソをかいた。