第39章 【伝説の始まり】
「ところで、その、話ガラッと変わるけど」
そして力はためらいながらも聞いてみたいことがあったので言った。
「俺こういうの初めてで。」
「そら普通はそうでしょ。」
「でも多分君もいくら身寄りがなくなったってさ、他所んちの子になるのって勇気が要ったと思うんだけど。」
「ええ、まぁ。」
視線を膝に落として美沙は言う。
「よく決心出来たね。」
力が言うと美沙はここで力に視線を合わせて言った。
「死にたなかったから。」
想像以上に重い答えに力は衝撃を受け、一瞬息が詰まるかと思った。そして美沙は美沙で力が動揺したことに気づいたのか慌てたように付け加えた。
「いやあの、もちろんそれだけやないんですけど、実際ばあちゃんとこの親戚一同は総スルーでそうなると私働いてる訳やなし学校も行かなあかんし、このままでは生きていかれへんってのは正直、その、大きかったです。」
ここで美沙は一瞬息を吸い込んだ。
「私は根性なしやから死んでもええとか1人でも生き抜いたるとかいう気概は持ってへんくて、縁下さんやったら少なくとも何度か会(お)うててまったく知らん訳やなし、せっかくのお申し出を受けへん手はないと思って。」
いやそれでいいんじゃないのかと力は思った。言われてみればわからなくもない、自分だって逆の立場ならきっと死にたくないからって思うだろう。
「その後どうなるかなんてどうせわからへんし。」
美沙はまた視線をそらす。顔が赤い。
「あの、その、私が貴方に害を与えるとかはほぼ間違いなくないと思うんで。」
「そんな心配してないよ。」
力は本当の事を言った。こんな繊細そうな子が敢えて人に害を与えるとは思えない。むしろ親がおらずずっと祖母に育てられ、おかげで他所の土地の言葉になってしまい加えて性格が人見知り、害を与えられる方が多かったのではないだろうか。
「それよりさ、」
力は呟いた。
「俺、君が根性なしとは思わないな。」
「せやろか。」
「生きたいって思って決めたんだろ、ちゃんと自分で。」
「だって私が決めんかったら誰が。」
「それを当たり前に言える子なんだね。」
力は微笑んだ。美沙はやはり首を傾げている。