第39章 【伝説の始まり】
ああこの子にとっては普通なんだなと力は思った。しばらく首を傾げていた美沙はまぁええか、と呟き力にまた視線を合わせ、そして
「お兄さんは、お優しいんですね。」
初めて笑った。
そこまで思い出したところで肩を叩かれ力はハッとした。
「どうしたんだよ、縁下。」
菅原だった。
「何か夢見てるみたいな顔して。」
「夢、ですか。」
力は呟く。
「似たようなもんかもしれません。」
「さてはまた美沙ちゃんだなー。」
ニヤリと笑う先輩に力は敵わないなと苦笑する。
「初めて会った時の事をつい思い出して。あの時もあんまり天気良くなかったから。」
「へー、つまり縁下シスコン伝説の始まりか、感慨深いな。」
「やめてくださいよ、菅原さんまでっ。」
「成田ー、木下ー、お前らの頭が何か言ってるんだけどー。」
菅原に声をかけられた木下が言った。
「今のうちだけだと思いまーす。」
「どうせ治りませんからー。」
成田までもが悪ノリする。
「お前らマジで最近何なんだよっ。」
「突っ込み役のはずのお前に突っ込まなきゃいけない俺らの身にもなってくれよ。」
成田がニヤリと笑いながら言った。
「で、式はいつだ。」
「よせよっ、出来るかどうかもわかんないだろっ。」
「もし出来るんならどーすんだよ。」
木下に言われてうっかり言葉に詰まったのはまずかった。
「そら見ろ。」
「いやあのな、」
「くそ、リア充爆発しろ。」
いつの間にか田中が混じった。嫌な予感しかしない。
「まーでもおめーとあの妹ならしゃあねーか。」
「田中、お前まで何だ。」
「力、美沙を嫁にすんのかっ。」
「西谷、お前は混じるなっ、ややこしいっ。」
「えっ、縁下さん美沙と結婚するのっ。」
「日向、別にそんな話してないからっ。」
「兄妹でそれ大丈夫なんすか。」
「影山も本気にしないっ。」
「その時は僕も呼んでくださいね、ネタにしますんで。」
「月島っ、煽るなって。」
「あ、あの、俺は祝福しますよ。」
「山口、お前もか。」
「子供はどうなるんだろ、やっぱり関西弁になるのか。」
「ひげちょこのくせに変な事考えるな、馬鹿。でもそうなったら面白いな。」
「旭さんと大地さんまでっ。」
誰も止めずに煽られまくり片っ端から突っ込みを入れざるを得ない前代未聞の事態に力は息切れする勢いだった。