第38章 【勉強会】
とある日、珍しくここは田中龍之介の家である。
「私おる意味あるん。」
美沙は隣に座る兄に言った。
「頼むからそこにいて。でないと俺心折れる。」
「兄さんともあろう人が何を阿呆な。」
「この有様を見て本当にそう言えるか。」
義兄の力が出されたジュースをすすりながらチラと横目でその有様に目をやった。視線の先には教科書や問題集の上で突っ伏して死んでいるようにしか見えない田中と西谷、それを苦笑して見つめる成田と木下がいる。美沙はうーんと唸った。
義兄の力以下男子排球部の2年は田中の家でテスト前の勉強会の真っ最中である。美沙は力にお前も来てと強引に連れてこられはたで自分の勉強をしつつ義兄の力が田中と西谷に指導している様を見ながらあまりにひどい野郎共2人に自分もついでにわかる範囲でおかしいところを指摘したりや2人がわからないところを教えてやったりしていた。
しかしこれは心折れるかもしれない。ここに至るまでに義兄があーでもないこーでもないと言いながら田中と西谷を教科書や問題集に向かわせ、だが2人がテレビ番組ばりの珍回答を連発する様を見ていたからだ。それはもう学年が下の美沙ですらわかる凄まじさであった。
「確かにこれはあかん。」
「だろ。」
「ほな私は何要員。学年ちゃうけど。」
「さっきやってくれただろ、まずは可能な範囲のフォロー、あの馬鹿2人のレベルはお前も見たとおりだし。後は癒し要員。」
「女子っぽくないことに定評のある奴置いて意味あるん。」
「俺の癒し。」
美沙は義兄が相当疲れていると思った。
「兄さんが人様の前で訳分からん事言うてる。」
実際聞こえていた成田と木下が兄妹をじっと見ている。美沙としては恥ずかしい。
「縁下がご乱心だぜ。」
突っ伏して美沙の頭をポムポムしだした力を見て木下が言う。
「これじゃ無理もないけど。」
続けて成田が屍(しかばね)状態の田中と西谷を見てため息をついた。