第36章 【義兄の突撃】
青城が休憩時間に入った時だ。力は思い出したことがあってこそっと及川を呼んだ。
「どうしたの、おにーちゃん。」
「その呼び方はかんべんしてください。お届け物があったのを思い出しまして。」
力はリュックをゴソゴソして小さなものを取り出す。プラスチックケースに入ったSDカード、いやよく見ればSDカード形のカードリーダーにマイクロSDカードがささっている。力はそれを及川の手のひらに乗せた。
「うちの美沙からです。試合で見かけた時でいいと言われてましたけどちょうどいい機会なので。」
キョトンとする及川に力は苦笑する。
「貴方が美沙に依頼したんでしょう。何でもいいから美沙の作った動画をくれって。」
及川は思い出したらしくあ、という顔をする。
「困ってましたよ、貴方が既に作ったやつでも何でもいいなんておっしゃるから。」
言いながら力は及川の手がプルプル震えていることに気がつく。
「美沙ちゃん、覚えててくれたんだ。」
「俺の妹ですから。」
及川のさりげなくも嬉しそうな様子、力は複雑な気持ちになる。それでも義妹が依頼に対して頑張った事をこの人にも伝えてあげたいと思い付け足した。
「出来立て新作、しかもどこにもアップしてないそうです。」
「マジでっ、丸々作ったのっ。」
「内容が貴方専用かどうかは知りませんけど。」
及川はわーいととても高3に見えない反応を見せ、影山がポカーンとする。
「因みにカードは返却不要、サービスだそうです。」
「え、いいの。」
「余った奴らしいんで。」
「マイクロSDカードを余らせるなんて妹さんは何者デスカ。」
「パソとスマホにやや強いけど自分では普通だと思ってる困った子です。」
力はつぶやき、
「岩ちゃん、美沙ちゃんからプレゼント貰ったっ。」
一方の及川は喜んで岩泉に報告している。
「食いもんならともかくおめーに動画作って寄越す奴なんざ初めてだわ。流石は6番の妹。」
「あの、俺は縁下です。」
「オタクってのはみんなああか。」
「妹曰くジャンルによりけりなので一概に言えないらしいです。」